萩往還の後編は、ピュアに、客観的に技術的な考察を残しておきます。
事前分析
100kに向けて最初の準備はコース分析でした。
萩往還なるものを聞いたこともなく、高低差を見て驚愕。
参考までにおかやまマラソンの高低差を重ねてます。どこにあるんだって?画像の左下をよく見てください。薄紫の線が同じ縮尺に直したおかやまマラソンの高低差です。30キロ地点に岡南大橋がありますよね。おかやまマラソンの高低差の目盛りは10.20.30m…。これでいかに萩往還がハードな高低差なのかわかるでしょう。また距離ですが、正確には103.2km。100km走った後でもう3.2キロ。3.2が余計だよ!
また過去10年の平均最高気温は32.6度、最低気温23度です。マラソンをする気温じゃない…。
公式による萩往還のコースイメージはこんな山道。コース図を見る限り3〜4割は不整地です。
そして、エイドは往復で11ヶ所(たぶん)だけ。私設エイドも従来はあったようですが今年は状況から考えて計算しない方がよさそう。コンビニも利用しますが最長無コンビニ区間10kmがあるので、限られたエイドで動き続ける補給力も求められます。
どう考えてもハードです。すけさんのリプに「完走なんて無理だから」と書いたのは、この分析で感じていた素直な感想です。
練習
距離に加えて、高低差、気温、不整地、少エイドに対応する練習が必要だと考えました。
ナギイチは萩往還を意識していませんでしたが、結果的にぴったりの練習。
アップダウンに耐える足を作る福山階段イカレポンチ練
距離と高低差、少エイドへの対応力を作る蒜山大山60k
炎天下での坂ロードと装備チェックの吉備SAラン
不整地に対応するための木曜トレラン会。とくに雨の日も休まず熊山走をしていたことが、ぬかるみに対応するスキルにつながったようです。
私はあまり関わっていませんが土曜の坂練(クロカン走?)、日曜のペーラン、金山走などが対応した練習になったと思います。
結果的にですが、私は富士登山競走に向けた練習として参加していたのでエイドラン用に鍛えられていましたね。
これらの練習は、走力、山力のトレーニングとしては効果的だったと思います。しかし、蒜山大山での補給問題はやはり懸念事項のままであり、本番でも足を引っ張ることになりました。
装備
シューズはホカ・クリフトン。トレランシューズという選択肢もありましたが、天気予報は晴れ。梅雨も明けていたのでロードを想定しました。
私はNIKE・テンポネクスト。横アーチ保護と急登対策としてのクッション。
ザックは最大の悩みどころ。軽量化に振るか、補給&冷却を取るか。結局、補給&冷却を選択。吉備SAランで背中を冷やしたランが効果的だったので暑さ対応でハイドレで臨むことに。
私は当然ザック&ユレニクイ。凍結ハイドレのみ自分用で、あとは私設エイド用。
小物でいうと、ヘッデン(ヘッド電気)、サングラスなどはいつも通り。この「いつも通り」は重要だと思います。
全体的に暑さ対策の放熱仕様でした。
レース
山口〜防府往復
まず4:30スタートなので真っ暗でした。街灯はありますが、足元が不安なのでヘッデンはアタリ。佐々並エイドまで荷物になりますが、序盤でコケたら辛いので軽量ヘッデンはアリ。
しばらく信号の多い街中ランなので、加減速が多く無駄な糖消費が増えそう。朝食タイミングが難しいですが、前日ローディングと朝ジェルで乗り切りたいですね。
まずは防府へ。峠越えロード走です。意外と関門が厳しいですが、この関門くらいで抜けないと後半に時間が残せない。スピードが求められる防府往復です。また山口市内では歩道橋や地下道など複雑なルートを要求されます。街中ランで無駄なく走る柔軟性も鍛えておきたい。
峠は、後半に備えて足を使いたくありません。上りと下りのペース配分を考えて計算し、目標タイムに対して無理のない配分を作りたいですね。鍋倉本にあるエネルギー消費量の数値やランスマを参考にまた考えてみます。
防府から折り返して山口市内エイドに戻るまでで、合計4ヶ所エイド。晴れて暑くなった場合、到底足りませんから、いかにコンビニや自販機で素早く給水するかもポイントになるでしょう。
山口〜防府往復はスピード勝負。時間を稼ぎたい区間。そのためにはスピード練習が欠かせません。サブ3.5レベルのスピードが求められるでしょう。そうなると当然、糖の消費も多いですからコンビニの多いことを利用して、ジェルなどをうまく摂り、使った糖質を戻して山口市内を抜けることがポイントかなと思いました。後半はアップダウンがキツく胃腸が弱りますから、それまでにしっかり蓄える戦略です。
今回は雨だったため気温も低く、そこまでの給水は必要なかったかもしれません。なお、山口市内最後のコンビニでハイドレに氷を入れました。暑ければ、さらにポカリを流し込んでいくのもアリ(ハイドレシステムによりますが)かなと思います。
ここから先、コンビニなし。地獄のコース突入です。
上りロードです。ロードなのでまさに金山走。走らずに早歩きで登るか、ヒールストライクでハムを使うランを心がけるか、とにかく小さい筋肉を使い切らないようにしたいところ。
石畳に入る天花畑には、本格的な私設エイドが出ていました。ここの歓迎ムードは素敵ポイント。エイドとしてカウントしてよさそうです。しかもラストコンビニと夏木原エイドとの中間地点。うまく手持ちドリンクを節約できそう。
天花畑〜夏木原(板堂峠)
高低差としては最大の難所、板堂峠越えです。
こういうところが3キロほど。苔むした石畳は雨でツルツルです。トレランシューズが優位。ロードシューズなら上から靴下を履かせ(靴上?)苔でも滑らなくする手がありますね。
とんでもない急登なので、私は手すりを持って降って登ってしたほど。また階段部分は福山階段トレが活きました。無駄のないフォームで筋疲労を抑えて登る動きを体感して身につけておくことが肝要です。
そして、問題は石畳。バランスを取ろうとすると、あっという間に脚筋力を使い果たします。すべらないシューズがベスト。その意味で、濡れた石畳×ロードシューズは厳しい選択でした。今回はトレランシューズが良かったと思います。靴上で登り、佐々並エイドのドロップバッグでトレランシューズか滑りにくいシューズに履き替えることもできますね。
ただスピードが出ないため、足が終わってきて力も出なくなると、体が暖まらず体温低下が起きます。雨のせいなのですが、いろいろな状況を想定しておきたいですね。
夏木原〜佐々並
板堂峠を越えるとロードと不整地を交互に繰り返しつつ、佐々並エイドを目指します。下り基調の区間。当然ながらペースアップして時間を稼ぎたい。とはいえ、まだ約50kmを残しますから下りで前腿を使い果たすと後半で踏ん張りが効かなくなる。バランスが難しいですね。各種山トレが影響する区間です。
ここまでの登りで時間を使ってしまった場合、夏木原エイドであまりゆっくり休みすぎないことも必要かも。それくらい関門はシビアだし、時間が足りなくなると焦りが出てメンタルにきますからね。(公式では各エイド10分休憩に設定されてます)
佐々並〜根の迫
佐々並エイドではドロップバッグを受け取れます。塩パンや外郎エイドは美味しいですが、カロリー補給としては足りませんし、食べたいものとは合致しない可能性も。距離が長いと食べたいもの、受けつけるものの個人の嗜好が強くなりますから、ドロップバッグを使ってうまく補給したいですね。
その一方、ドロップバッグは「着替え用」になっており更衣室もあるんですが、疲れていたら着替える余裕も必要もなし。その時間がもったいないですね。前述のようにシューズを替えるのはありです。雨で濡れていたら替えておきたいところです。
佐々並を出てしばらくすると、また不整地・トレイルに。ここは雨でぬかるみ、走れない状態。トレランでぬかるみ慣れしていたのは奏功しましたが、ペースは落ちるし、体力を使います。雨天時はやはりトレランシューズ選択で。
また、この辺りは折り返した選手や他のコースの選手たちとすれ違いが多く、互いに声を掛け合うことでパワーをもらえます。とくに100kmゼッケンには応援が大きいそう。顔を上げて積極的に声をかけあい、パワーを得るのも戦略のうち。
根の迫〜萩
根の迫エイドはトレイル山中のポイント。大会通じてエイドはシンプルなので、手持ち補給食とのバランスをとりつつ進みたいところです。
今回は雨天でしたが、晴天だと30度をとっくに超えている時間帯。じっくり水分補給しないと萩までの10kmで倒れかねません。
また「道の駅萩往還」あたりからロードに出て、日陰が減ります。ロードは体感気温が跳ね上がるので、意識して暑さへ対応したいですね。
今回も29度は超えました。一気に走れなくなります。また以前何かトラブルでもあったのか、道の駅を利用しないという規定があるので、トイレも自販機もそのまま通過…。下りとは言え、ここはキツい。折り返しまであと3キロだと言い聞かせて、乗り越えたい。
同時に復路の道順を記憶しておきたい。周囲に誰もいなくなるとロスト必至の複雑コース。分岐点で振り返り、自分が来た景色を焼き付けておくことも完踏には必要かなと思われます。
萩〜
萩の折り返しエイドもあっさり。しかし、ここから今来た10kmを戻ります。当然、登りに。関門は15時ですが、完踏を考えるなら14時ごろには到達予定。気温は最高を記録する時間帯です。残り30キロ。ここで気持ちを新たにし、残った足とスタミナ、補給食などを総合的に勘案して、ペース配分を再構成する必要があるでしょう。ギリギリ通過の場合、2時間後の佐々並エイド関門に間に合わせるのは至難の業。3時間は余裕がほしい。登り基調でエネルギー消費が1.5倍程度になりますからペースアップは命取り。むしろ止まらずに動き続けることで確実に距離を縮めることに注力したい。
また、すれ違う選手が減るのも怖い要素。できる限り前の人に追随し、記憶を補完してロストを防ぐことも肝要ですね。ロストしている時間的、体力的余裕はありませんから、事前のコース学習は徹底したいです。可能なら試走もしておきたい。
ここから先は未知の世界。来年のお楽しみです。
総評
フルサブ3=スピード
ウルトラサブ10=スタミナ
富士登山競走完走=山力
の全ての要素を一つの大会に叩き込んだようなレースが萩往還マラニック。その全てが高いレベルで要求されることを実感しました。
序盤はスピードで時間を稼ぎ、
トレイルは山力で無駄なく山を越え、
ラストはスタミナで耐え切る力が必要、といったところでしょうか。
来年、もしこの大会が開催されるなら力試しに挑戦してみたいものです。